メキシコのコーヒーというと、観光地で飲む甘いカフェデオジャを思い浮かべる人もいるかもしれない。しかし実はメキシコは世界第10位のコーヒー生産国であり、さらに注目すべき肩書きを持っている。
メキシコは世界第2位のオーガニックコーヒー生産国だ。環境協力委員会(CEC)によると、メキシコのコーヒーは世界のオーガニックコーヒーの20.5%を供給している。 Specialty Coffee Association
先住民農家が伝統的なシェードグロウン農法を守り続けながら、スペシャルティへの転換を同時に進める——これが2025年のメキシココーヒーの姿だ。

メキシコのコーヒー生産:基本データ
2025/26年のメキシコのコーヒー生産量は390万袋(60kg換算)で前年比微増と予測されている。成長は強いアラビカ収量と政府支援の植栽プログラムに支えられており、プエブラやベラクルスなど収量の高い州での生産増加も要因だ。 Bowers Lake Coffee
主要生産州の内訳はチアパス(37%)・ベラクルス(24%)・プエブラ(22%)・オアハカ(8.4%)・イダルゴ(3.2%)だ。プエブラが生産性では全国トップで、1ヘクタールあたり平均12.22袋——全国平均の2倍以上の収量を誇る。 Bowers Lake Coffee
メキシコのコーヒーは85%がアラビカ・15%がロブスタで、ティピカ・ブルボン・カトゥーラなどの品種を含む。メキシコは15州にまたがる49のコーヒー産地を持ち、チアパス・ベラクルス・オアハカ・プエブラの4州が全国生産量の90%を占める。 Specialty Coffee Association
三大産地の個性:チアパス・ベラクルス・オアハカ
チアパス(Chiapas):「ヘビーウェイトチャンピオン」
チアパスは全国の約40%のコーヒーを生産するヘビーウェイトチャンピオンで、チョコレートが豊富なフレーバープロファイルと強烈な柑橘の酸味が特徴だ。高標高の火山性土壌のおかげで際立っている。 Mordor Intelligence
チアパスコーヒーはしばしばソフトな酸味とカカオの深みを持つ。 Toast POS
グアテマラとの国境に位置するチアパスの山岳地帯では、先住民マヤ系農家が代々シェードグロウン農法でコーヒーを栽培してきた。この伝統的農法が豊かな生物多様性を守りながら、深みのある風味を生み出している。
ベラクルス(Veracruz):「ベテランの賢者」
ベラクルスはメキシコで最も古いコーヒー焙煎産地で、シナモンとソフトな柑橘のノートを持つ繊細で親しみやすいカップで知られる。 Mordor Intelligence
ベラクルスのロットは驚くほどの明るさとフローラルを見せることがある。 Toast POS
メキシコ湾に面するベラクルスは18世紀にコーヒーが最初に持ち込まれた場所で、200年以上の歴史を持つ。チアパスの力強さとは対照的な、繊細で飲みやすい一杯が特徴だ。
オアハカ(Oaxaca):「アーティスト」
オアハカは「アーティスト」で、傑作プルマイダルゴの故郷だ——これはフローラルな複雑さを持つ、より軽やかなボディの独自の産地だ。 Mordor Intelligence
オアハカのプルマイダルゴ(Pluma Hidalgo)はメキシコスペシャルティコーヒーの象徴ともいえる存在で、太平洋に向かって落ち込む急峻な山の斜面で栽培される。フローラル・軽やかなボディ・エレガントな複雑さで世界のロースターから高い評価を受けている。
世界第2位のオーガニック生産国という誇り
チアパス・オアハカ・プエブラの多くのメキシコのコーヒー生産者はシェードグロウン(日陰栽培)・低投入農法を採用している。メキシコのコーヒーの相当部分がオーガニック認証を持っており、メキシコのコーヒーは年間28,000トンの認証オーガニックコーヒーを輸出している。 Specialty Coffee Association
この高いオーガニック比率は偶然ではない。貧しい農家ほど農薬・化学肥料を買えないという逆説的な事情があるが、それが結果として化学物質不使用の「自然なオーガニック」を生み出してきた。近年はその価値を積極的に活かした認証取得が進んでいる。
先住民農家と協同組合の力
メキシコのコーヒー産業の特徴のひとつが、先住民農家による小規模協同組合の存在だ。
多くの小規模農家は協同組合とフェアトレードモデルを採用して回復力を保っている。 787 Coffee
チアパスやオアハカでは先住民のツォツィル族・ツェルタル族・ミステコ族などが代々コーヒーを栽培してきた。協同組合を通じた直接取引(ダイレクトトレード)が農家の収入向上に貢献しており、スペシャルティロースターとの長期パートナーシップが増えている。
2025年の注目:インスタントコーヒー輸出の急増
インスタントコーヒー輸出は記録的な165万袋に達すると予測されており、米国がメキシコのトップ輸出市場だ。 Bowers Lake Coffee
一方でスペシャルティコーヒーへの国内需要も急成長している。
メキシコシティ・グアダラハラ・モンテレイなどの都市部はスペシャルティロースター・ブティックカフェ・国際的なフードチェーンを通じて現代のコーヒートレンドを受け入れた。今日の消費者はコーヒーの背景——その産地・サステナビリティの方法・フレーバープロファイル——にますます関心を持っている。 Fresh Cup
カフェデオジャ:メキシコのコーヒー文化
スペシャルティコーヒーだけがメキシコのコーヒーではない。
家庭でメキシココーヒーを作るには、素焼き鍋(オジャ)で水にピロンシージョ(粗糖)とシナモンを入れて煮てから、挽きたてのメキシココーヒー粉を入れて煮出す。 Specialty Coffee Association
カフェデオジャはメキシコ伝統のコーヒーの淹れ方で、素焼き鍋でシナモンと粗糖と一緒に煮出す独特の文化だ。スペシャルティコーヒーの文脈とは異なるが、「コーヒーは文化だ」というメキシコの側面を体現している。
課題:天候・病害虫・労働力
限られた政府支援・労働力不足・生産コストの上昇が生産者に影響を与え続けている。 787 Coffee
気象の変動性・植物の病気・限られた生産投入資材へのアクセスが多くの地域で収量を制約し続けている。 Bowers Lake Coffee
コーヒー葉さびとコーヒーベリーボーラー(害虫)がチアパスやオアハカの農家を悩ませており、病害虫耐性品種の導入が進んでいる。
日本のコーヒー好きへの示唆
オーガニック派には最高の選択肢:世界第2位のオーガニック生産国というメキシコのポジションは、化学物質不使用にこだわる人にとって最高の産地だ。チアパス産のオーガニック認証豆は日本でも入手しやすい。
プルマイダルゴを一度は試してほしい:オアハカ産のプルマイダルゴはメキシココーヒーの中でも別格の品質を持つ。軽やかなボディとフローラルな香りはV60での浅煎り抽出で最も輝く。
フェアトレード認証で農家を支援:メキシコの先住民農家協同組合のフェアトレード豆を買うことは、山岳地帯の農村コミュニティへの直接支援になる。
まとめ
メキシコのコーヒーは「量」でも世界トップ10に入りながら、「オーガニック」でも世界第2位という二刀流の産地だ。チアパスのチョコレートの力強さ・ベラクルスの繊細な甘み・オアハカのエレガントなフローラル——三大産地の個性はそれぞれが際立っており、飲み比べるだけで一冊の本が書けるほどの多様性を持っている。
先住民農家が代々守ってきたシェードグロウンの伝統と、スペシャルティへの転換という現代の挑戦が交差する産地——それがメキシコだ。
参考
- Mexico Coffee Report: Production Up Slightly – Daily Coffee News
- Mexican Coffee: Exploring Chiapas, Veracruz & Oaxaca – Bald Guy Brew
- Mexican Coffee Beans: Regions, Production, Flavors – Colipse
— TARS


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