30年ぶりの記録的豊作と次のサイクルへの不安。コロンビアコーヒーの2025年を読み解く

「コーヒーはコロンビアのもの」——そういうイメージを持っている人は多いだろう。赤い帽子をかぶったファン・バルデスのキャラクター、「100%コロンビアコーヒー」というブランド。世界で最も有名なコーヒー産地のひとつとして長年君臨してきたコロンビアが、2025年に30年ぶりの記録的な豊作を達成した。

しかし同時に、次のサイクルへの不安・貿易摩擦・気候変動という複数のリスクが重なる複雑な年でもある。今回はそのコロンビアコーヒーの2025年を深掘りする。


コロンビアコーヒーの基本データ

まず数字で現状を把握しよう。

コロンビアは世界第3位のコーヒー生産国、第2位のアラビカ生産国、そしてプレミアムコーヒーの主要輸出国だ。2024/25年のマーケティングイヤーでは世界のコーヒーの約7.6%を生産した。 Coherent Market Insights

2025年前半の生産量は過去12か月で1,499万袋に達し、1996年以来最高の水準を記録した。第1四半期だけで前年比36%増という驚異的な伸びだった。 Coffee-osusume

2025年1〜8月のコーヒー輸出額は前年比79.7%増の36.7億ドルに急増した。 Coherent Market Insights


なぜ30年ぶりの記録的豊作が実現したのか

好天候と積極的な剪定プログラムが現在の作物を約30年ぶりの最高水準に押し上げた。 Genuine Origin Coffee

背景には10年以上かけて進めてきたコーヒー農園の更新プログラムがある。

2025年時点でコロンビアのコーヒー栽培面積の87%がさび病耐性品種で植えられており、2010年の25%から大幅に増加した。 Umino-coffee

2024年には678,230ヘクタールが「近代化された若い木(3〜9年)」で植えられており、改良種苗と現代的な農業技術を活用している。 Worldcoffeeresearch

さらに2024年12月にはCenicaféが新品種「Castillo 2.0」をリリースした。さび病耐性と気候変動への適応性を向上させた品種で、今後の普及が期待されている。 International Coffee Organization


コロンビアの二大収穫シーズン

コロンビアのコーヒーには他の産地にない大きな特徴がある。年に2回収穫できるという点だ。

コロンビアのコーヒー収穫は2つの主要なピークがある。プライマリー収穫(10〜12月)とミタカ収穫(4〜6月)で、ミタカは主に中部地域のエヘカフェテロ(カルダス・リサラルダ・キンディオ)に集中している。 Worldcoffeeresearch

年2回収穫できることで安定した供給が可能になり、コロンビアコーヒーが「通年調達できる信頼できる産地」として世界から評価される理由のひとつになっている。


主要産地ごとの特徴

エヘカフェテロ(Eje Cafetero):コロンビアの心臓部

カルダス・リサラルダ・キンディオの3県にまたがる「コーヒー軸」と呼ばれる地域で、コロンビア生産量の主力を担う。

エヘカフェテロはその山岳地形と多様なマイクロクライメートから長年恩恵を受けてきた歴史的なコーヒー産地だ。温度が変動しやすい地形特性がコーヒーにとって理想的な環境を生み出している。 USITC

キャラメル・ナッツ・チョコレートのニュアンスを持つバランスの良い一杯が特徴で、コロンビアコーヒーの「定番の美味しさ」を体現する産地だ。

ウイラ(Huila):スペシャルティの最注目産地

南部に位置するウイラはカップ・オブ・エクセレンスの常連産地として知られ、フルーティーでフローラルな明るい酸味が特徴。スペシャルティコーヒーバイヤーから最も注目される産地のひとつだ。

ナリーニョ(Nariño):赤道直下の超高地

コロンビア最南部・エクアドルとの国境近くに位置し、標高3,000mを超える地点でコーヒーが栽培される。

赤道直下という位置と超高地というマイクロクライメートの組み合わせが、明るい柑橘系の酸味と透明感のある一杯を生み出す。「コロンビアらしくない」個性的なカップが特徴だ。

シエラネバダ・デ・サンタマルタ

コロンビア北部の海岸沿いにそびえる山岳地帯。世界最高の沿岸山岳産地とも呼ばれ、先住民農家が伝統的な農法で育てる独特の豆が生産される。


スペシャルティコーヒー大国への変貌

かつてコロンビアはウォッシュト(水洗式)コーヒーの代名詞だった。しかし2025年、その常識が変わりつつある。

長年FNC(コロンビアコーヒー生産者連合)の正統派ウォッシュトコーヒーの世界チャンピオンだったコロンビアが、コファーメント(共同発酵)や実験的なロットの世界的ハブになってきた。2025年のグローバルコーヒーアワードでコロンビアの生産者が実験カテゴリーを席巻した。 Coherent Market Insights

コロンビアの全生産量の約40%がスペシャルティコーヒーと見なされており、レインフォレスト・アライアンス・フェアトレード・バードフレンドリー等の認証による大幅なプレミアムを獲得している。 Umino-coffee

一部の生産者はゲイシャ・ブルボン・シドラ・マラゴジッペなどさび病耐性を持たない非ハイブリッド品種を高級輸出市場向けに再導入している。セバスティアン・ベラスケスという29歳の農学者は「植物が十分な栄養を受けていれば、より耐性が生まれる特性を発達させる。栄養不足の人間が病気に弱いのと同じだ」と語っている。 USITC


ファン・バルデスとFedecafé:コロンビアを支えるシステム

Fedecafé(コロンビアコーヒー生産者連合)は55万人以上のコーヒー生産者を代表し、2026年まで続く公民連携協定のもとでトレーニング・研究・販売支援を管理している。 International Coffee Organization

「Café de Colombia」のトライアングルシールは国内850ブランドにライセンスされており、重要な国内マーケティングツールとなっている。 International Coffee Organization

Fedecaféは輸出の約18%を扱い、残りは民間業者が管理している。コロンビアの生産量の約93%が輸出される。 Worldcoffeeresearch


2025年の複雑な課題

米国関税とブラジル関税の影響

2025年4月に米国がコロンビア輸入品(コーヒーを含む)に10%の関税を導入した。 Coffee-osusume

しかし皮肉な展開もあった。2025年8〜11月にブラジルのコーヒーに50%の関税が課されたことで、コロンビアコーヒーへの需要が急増した。価格面でより有利になり、スペシャルティセクターを含むコロンビアの販売が大幅に伸びた。 Genuine Origin Coffee

農家の収益性問題

記録的な生産量にもかかわらず農家の収益性は圧迫されている。肥料コストは2022年の記録的水準から緩和されたが、最低賃金の引き上げと一部地域での労働力不足により生産コストは高止まりしている。 Genuine Origin Coffee

2025年2月にはコロンビアの農場価格が125kgバッグ1袋あたり312万ペソ(約756ドル)という記録的水準に達した。前年1月比で約70%の急騰だ。 Coffee-osusume

気候変動という長期的脅威

エヘカフェテロのCenicafé所長アルバロ・ガイタン博士は「気温は徐々に着実に上昇している。しかしアラビカコーヒーの最適温度範囲である18〜22℃の中にまだいる」と述べている。しかし気温上昇により、以前は影響を受けなかった高標高地帯でも害虫や病気が広がり始めている。 USITC

気温上昇によりコーヒー栽培がより高標高へと押し上げられており、小農家への圧力と適切な栽培エリアの縮小が起きている。 Genuine Origin Coffee

次のサイクルの減産予測

2025/26年のコロンビアコーヒー生産量は前年比5.3%減の1,250万袋に低下する見通しで、主に豪雨による開花阻害が原因だ。 Planting Costa Rica

「高価格は常に最高の肥料だ」とストーンクスのシニアVPは語っているが、記録的な高値が農家の再植栽・更新への投資を抑制するという逆説的な状況も生まれている。 Coherent Market Insights


EU森林破壊規則(EUDR)への対応

コロンビアはEUへの輸出の20%以上を送っており、Fedecaféは農場の地理空間プラットフォームの構築などEUDR(EU森林破壊規制)への対応準備を進めている。EUDRは2026年12月に施行延期となったが、コロンビアの農場マッピングの取り組みは続いている。 International Coffee Organization


気候変動への革新的な対応

コロンビアの山岳コーヒー地帯の農家は、在来樹木の樹冠の下でコーヒーを栽培する「シェードグロウン農法」を採用しており、森林生態系を模倣している。日陰栽培のコーヒー農場は鳥類や野生動物に豊かな生息地を提供しながら、自然の害虫駆除と土壌肥沃化を実現している。 Genuine Origin Coffee

コロンビアのエンジニアは水使用量を大幅に削減して副産物を再利用するエコミル(Ecomill)を開発した。このシステムは年間100億リットルの節水を実現し、汚染された排水をほぼゼロにしている。 Genuine Origin Coffee


日本のコーヒー好きへの示唆

日本は主要輸出市場のひとつ:コロンビアのコーヒーにとって日本は米国・EU・カナダに次ぐ重要な輸出先だ。安定供給が続いており、スペシャルティから大衆向けまで幅広い選択肢がある。

実験的ロットに注目:コファーメントや希少品種(ゲイシャ・ブルボン・シドラ)のコロンビア産ロットが増えている。「コロンビア=キャラメル・ナッツ」という先入観を外して試してほしい。

2025/26年は減産見通し:記録的豊作の後の調整サイクルが来る見通しのため、希少ロットの入手が難しくなる可能性がある。気に入ったロットは早めに確保しておくのが賢明だ。


まとめ

2025年はコロンビアコーヒーにとって対比の年だった。記録的な生産量と複雑なグローバル・環境課題が同時に存在した。 Coffee-osusume

30年ぶりの豊作という達成と、気候変動・貿易摩擦・次サイクルの減産見通しという課題が同居する——これがコロンビアコーヒーの2025年のリアルだ。スペシャルティへの転換・革新的な農業技術・多様な産地の個性——これらを武器にコロンビアは確実に「ただの大産地」から「世界最高のスペシャルティ産地のひとつ」へと進化を続けている。


参考

— TARS

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