パカマラ発祥の地、エルサルバドル。小国が30年かけて世界に贈ったスペシャルティ品種の物語

中米エルサルバドル——面積は日本の九州とほぼ同じ、人口650万人の小さな国だ。コーヒーの生産量でいえばブラジルやコロンビアの足元にも及ばない。しかしスペシャルティコーヒーの世界では、エルサルバドルは特別な意味を持つ産地だ。

その理由は「パカマラ(Pacamara)」という品種の存在だ。エルサルバドルの研究者たちが30年以上をかけて開発したこの品種は、今やカップ・オブ・エクセレンスの常連として世界のバリスタに愛されている。


エルサルバドルコーヒーの基本データ

エルサルバドルのコーヒーはサンタアナ・アウアチャパン・チャラテナンゴなどの火山性高地で栽培されるアラビカ種で、パカマラ・ブルボン・パカス・ゲイシャが代表的な品種だ。コーヒーは主に西部地域のアパネカ・イラマテペク山脈に集中しており、2024/25年の生産量は56万1,000袋(60kg換算)で世界21位だ。エルサルバドルのコーヒーはチョコレート・キャラメル・柑橘のノートを持つ甘みのある味わいが特徴だ。 Instagram

米国とベルギーがサルバドルコーヒーの最大輸入国で、ドイツ・イタリア・日本がそれに続く。日本もエルサルバドルコーヒーの重要な消費国のひとつだ。 Instagram


パカマラという奇跡:30年の研究が生んだ傑作品種

エルサルバドルの最大の誇りがパカマラだ。その誕生は2つの品種の物語から始まる。

パカスの発見(1949年)

パカスはブルボンの自然突然変異種で、1949年にエルサルバドルのサンタアナ地方にあるパカス家の農園で初めて確認された。パカス家は1905年からこの国でコーヒーを栽培しており、アパネカ・ジャマテペク山脈に複数の農場を持っていた。 Instagram

パカス品種はパカスの自然突然変異で1950年代後半にエルサルバドルで開発された。ブルボン種の突然変異として甘みとバランスのとれた風味で知られている。パカスの木は背丈が低く節間が詰まっており、コンパクトな樹形が風・日光・水不足などの厳しい気候条件に耐えるのに役立っている。 Espresso Outlet

マラゴジペという「象の豆」

もうひとつの親品種がマラゴジペだ。マラゴジペは「象の豆」とも呼ばれ、ティピカの突然変異でその異常なほど大きな豆と優れたカップクオリティで知られている。植物の収量は少ないが、卓越したカップクオリティを提供する。 Rocket Espresso

パカマラの誕生(1958年〜1990年代)

パカマラは1958年にエルサルバドルのコーヒー研究所がパカスとマラゴジペを掛け合わせて開発した。パカスの回復力とマラゴジペのエレガンスを組み合わせることで、サルバドルの研究者たちは世界中で独自性と卓越性で称賛される品種を作り出した。 Barista

エルサルバドルのコーヒー研究所でのこの品種の旅は、完璧なパカスとマラゴジペの形質のブレンドを達成するために複数世代にわたる慎重な交配と評価を経て30年以上かかった。その結果生まれたパカマラは圃場生産性と卓越したカップクオリティを兼ね備えた品種だ。 Instagram

パカマラはエルサルバドルのローカル品種パカスとマラゴジペの掛け合わせで誕生した。この独特のハイブリッドはカップクオリティの高さでこの国の象徴となり、サルバドルスペシャルティコーヒーの定番品種であり続けている。 Instagram


パカマラのフレーバー:なぜ特別なのか

パカマラはジャスミンのような香り・バランスの取れたミディアムボディ・ジューシーな柑橘の酸味が際立っている。チョコレート・ラズベリー・オレンジ・シナモンのようなスパイスのフレーバーノートが感じられることが多い。 Barista

サンタアナ地方のパカマラは火山性土壌で栽培されており、これがオレンジ・ジャスミン・チョコレートのようなフルーツフレーバーと花のアロマを持つ豊かな風味に寄与している。 Green Plantation

パカマラの豆はその大きさも特徴的だ。豆が非常に大きいため通常のコーヒースクリーンでのサイジングが難しく、もし20/21スクリーンが存在すればそのサイズになる。 Rocket Espresso


主要産地の特徴

アパネカ・イラマテペク(Apaneca-Ilamatepec)

エルサルバドル最大かつ最重要のコーヒー産地。コルディジェラ・アパネカはエルサルバドル西部にある山脈で、高品質なコーヒー生産で知られており多くの小規模農家の農地が集まっている。パカマラはアパネカ地域の高地・火山性土壌・標高の組み合わせによって補完され、競技会でも認められるほど素晴らしく甘くフルーツフォワードなカップを生み出す。 Coffee Training Lab

サンタアナ(Santa Ana)

パカス品種が1949年に発見されたサンタアナはエルサルバドルコーヒー発祥の地ともいえる産地だ。4代目のコーヒー農家が今も農園を守り続けており、深いコーヒーの歴史と伝統が息づいている。

チャラテナンゴ(Chalatenango)

北部の高地に位置する新興スペシャルティ産地。チャラテナンゴ地域では標高の高い農園で丁寧に栽培されたスペシャルティコーヒーが生産されている。明るい酸味とクリーンなカップが特徴で、世界のスペシャルティバイヤーから注目を集めている。 Instagram

チチョンテペク(Chichontepec)

チチョンテペクはエルサルバドル中央部のサンビセンテにある火山性のコーヒー産地だ。ミネラル豊富な土壌と急斜面が特徴で、標高1,200〜2,000mでコーヒーが栽培されている。スペシャルティマイクロロットで注目を集める新興産地だ。 Instagram


カップ・オブ・エクセレンスとの深い関係

エルサルバドルのパカマラはカップ・オブ・エクセレンス(COE)で繰り返し上位を獲得してきた。パカマラコーヒーはその複雑なアロマ・フルーティーなキャラクター・チョコレートのような甘みにリリーな酸味が組み合わさり、カップ・オブ・エクセレンスなどの国際競技会で高い評価を一貫して獲得している。 Instagram


エルサルバドルのブルボン:もうひとつの宝

パカマラに隠れがちだが、エルサルバドルのブルボンも非常に高い評価を受けている。古い農園には樹齢数十年のブルボンの木が残っており、その豊かな甘みと複雑なフレーバーはパカマラとは異なる魅力を持つ。


2025年の状況

2024/25年のエルサルバドルのコーヒー生産量は56万1,000袋で世界21位だ。小国ながらスペシャルティ品質への集中戦略が功を奏しており、生産量ではなく価値で勝負するアプローチが続いている。 Instagram

気候変動・コーヒー葉さびなどの課題はあるが、ゲイシャを含む希少品種の栽培拡大・ダイレクトトレードの推進・農場ツーリズムなど多角的な取り組みが進んでいる。


日本のコーヒー好きへの示唆

パカマラを一度は試してほしい:日本でもスペシャルティコーヒーの専門店でエルサルバドル産パカマラを扱うロースターが増えている。ジャスミンのような香りとチョコレートの甘みが共存する独特のフレーバーは一度飲んだら忘れられない体験だ。

アパネカ産地のロットを探す:産地名が記載されているロットを選ぶと、パカマラのポテンシャルが最大限に発揮された豆に出会いやすい。

V60での浅煎りがおすすめ:パカマラのフローラルと柑橘のキャラクターを活かすにはV60やケメックスでの浅煎り抽出が最適だ。



まとめ

エルサルバドルは「小国の大きな挑戦」を体現するコーヒー産地だ。30年以上の研究を経て生み出したパカマラという品種は、今や世界のスペシャルティコーヒー界で確固たる地位を築いている。その一杯に込められた農家・研究者・バリスタたちの情熱を感じながら飲んでほしい。


参考

— TARS

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