コーヒーはイエメンから世界へ広まった。550年の歴史と紛争を越えて輝く「モカ」の真実

「モカ」という言葉を聞いたことのない人はいないだろう。カフェモカ・モカポット・モカフレーバー——これらすべての言葉の起源は、中東の小さな港町にある。

イエメンの港湾都市モカは16〜17世紀にコーヒーを中東・ヨーロッパ・世界各地に輸出する主要ハブとなり、「モカ」という言葉はコーヒーのフレーバーの代名詞になった。これがイエメンが世界のコーヒー文化に与えた深大な影響を証明している。 My-Best

しかし現在のイエメンは深刻な紛争の最中にある。それでもなお、山岳地帯の農家たちは数百年受け継がれてきた在来品種のコーヒーを守り続けている。今回はその全貌に迫る。


コーヒー文化の起源:イエメンから世界へ

コーヒーの発祥はエチオピアだが、コーヒーを「飲み物」として世界に広めたのはイエメンだ。

イエメンのコーヒーは550年以上にわたる歴史を持つ。15世紀頃、イエメンのスーフィー僧が夜の祈祷の際に眠気覚ましとしてコーヒーを飲み始めたとされている。その後コーヒーはイエメンのモカ港から紅海を越えて中東・オスマン帝国・ヨーロッパへと広まっていった。 Postcoffee

16〜17世紀の全盛期、モカ(アル・マカ)はコーヒー貿易の世界的中心地だった。オスマン帝国時代の部族間交易と遠征のハブとして機能し、その主要商品がイエメンのコーヒー豆だった。 Note

コーヒーハウス(カフェ)の文化もイエメン・オスマン帝国経由でヨーロッパに伝わった。今世界中にある「カフェ」の原点がここにある。


イエメンコーヒーの3つの独自性

① 何百年も変わらない在来品種

イエメンのコーヒー農家は数世代にわたって伝統農業と在来品種の木を守り続けている。 Kiakiraki

ジャーディ・ウダイニ・ハイミ・ブライ——これらはイエメン固有の在来品種で、他の産地では存在しない独自のフレーバーを持つ。ハラーズ地区で栽培されるジャーディ品種はマンゴー・赤ワイン・クローブ・タマリンド・ダークチョコレートのフレーバーで知られる。 Postcoffee

② 古代テラス農場での完全手作業

イエメンのコーヒー農家は農場レベルで伝統的な乾燥を行う。熟したチェリーを木から摘み取り、屋根の上・コンクリートのプラットフォーム・タープやビニールシートの上で約10〜21日間太陽の下で乾燥させる。 PostCoffee

数百年前に石を積んで作られた急峻な山の段々畑(テラス)は機械化が不可能で、すべての作業が人の手で行われる。

③ ナチュラル精製が生む複雑なフレーバー

イエメンのコーヒーはナチュラル(ドライ)精製が主流で、コーヒーチェリーが除去される前に木の上で乾燥する。全体のチェリーが豆の周りで乾燥することで、強烈なフルーツフレーバーと独特の味わいが生まれる。この精製方法がワインのような複雑さを生む。 Scrop-coffee-roasters


主要産地ごとの特徴

ハラーズ(Haraaz):イエメンの代名詞

ハラーズは古代テラス農場と独自のマイクロクライメートで知られており、イエメンで最も求められるコーヒーを生産している。 Kiakiraki

ハラーズは「典型的・シグネチャーなイエメンフレーバー」の代名詞だ。伝統的でラスティック、ドライ・タンニン・モカ・ワインのような要素を持ちながらも過剰にならず、バランスが取れていて親しみやすい。 PostCoffee

ハラーズのコーヒーはストロベリーとコリアンダーのテイスティングノートを持つ滑らかな口当たりが特徴だ。 Fuji88udon

サナニ(Sanani):最も入手しやすいイエメンコーヒー

首都サナア周辺の高標高地帯で栽培されるサナニは、イエメンコーヒーの中で最も流通量が多い。フルーティーでワインのような複雑さを持ちながら、ハラーズより比較的手頃な価格で入手できる。

イスマイリ(Ismaili):バランスの良い価値派

バランスの良い酸味と複雑なフレーバーを持つイスマイリはモカやハラーズと比較してコストパフォーマンスが良く、品質を維持しながらスペシャルティコーヒーへの入門に向いている。 Scrop-coffee-roasters

バニマタール(Bani Matar)

ハラーズと並んでイエメンの高品質産地として評価される地区。スペシャルティバイヤーからの需要が増加しており「ヘリテージ」または「エアルーム」品種として高い価格で取引される。


モカ港の栄光と没落

モカ港はその地理的アクセスのしやすさからフーシ派反政府勢力が政府を掌握しようとする際の絶好の拠点になった。 Note

かつて世界のコーヒー貿易を支配したモカ港は現在、紛争の最前線に位置している。その歴史的な名前だけが「カフェモカ」「モカポット」として世界中のカフェで生き続けている。


紛争下のイエメンコーヒー:2025年の現状

戦争・疾病・飢饉・厳しい地形がイエメンのコーヒー農家に困難をもたらしているが、この国はコーヒーシーンで上向きの動きを見せている。世界中の人々がイエメンのユニークなコーヒーを求めており、創造的な企業と持続可能な農業システムがそれを支え続けている。 Fuji88udon

紅海危機がイエメンコーヒーのサプライチェーンに影響を与えている。紛争地域からコーヒーを調達する際の難しさ・輸送ルートの制限・金融システムへのアクセスの困難さが輸出業者の課題となっている。 Postcoffee

しかし希望の動きもある。ファイアーバード・コーヒーのような企業は紛争の影響を受けた農家からコーヒーを調達し、彼らがヨーロッパのスペシャルティロースターに輸出することで生計を確保できるよう深くコミットしている。 Kiakiraki

Al Mokhaのようなスペシャルティ企業は2011年からイエメンで活動しており、直接農家からの調達・コレクションセンターの管理・フェアバリュー購買システムを通じてイエメンコーヒーを世界市場に届け続けている。 Iecolle


キシル(Qishr):もうひとつのイエメンのコーヒー文化

Al Mokhaではロースターコーヒー・キシル(コーヒーハスクティー)・グリーンコーヒーの形でイエメンコーヒーが提供されている。 Iecolle

キシル(Qishr)とはコーヒーチェリーの外皮(ハスク)をショウガやスパイスと煮出したイエメン伝統の飲み物だ。コーヒーの豆ではなく皮を使うこの飲み物は、イエメンの家庭で代々飲み継がれてきた。スペシャルティコーヒーの文脈でも「カスカラ」として世界的に注目されている。


日本のコーヒー好きへの示唆

一期一会の一杯:イエメンのコーヒーは流通量が極めて少なく、日本で入手できるロースターはごく限られている。見かけたときが買い時だ。

フレンチプレスかAeropressがおすすめ:イエメンのナチュラルコーヒーの濃厚なフルーツ感とワインのような複雑さを楽しむには、ペーパーフィルターで油分を取り除くよりフレンチプレスやAeropressで抽出する方が向いている。

買うことが農家への支援になる:イエメンコーヒーを買うことは、困難な環境の中でコーヒーを守り続ける農家への直接的な経済支援になる。トレーサビリティが明確なスペシャルティロースターから購入しよう。

価格は高いが価値がある:限られた供給と高い需要がイエメンのコーヒーを高価格にしている(1オンスあたり8〜15ドル)。しかしその価格は希少性・品質・550年の歴史・農家への適正な対価の証だ。 Scrop-coffee-roasters


まとめ

「モカ」という言葉は今や世界中のカフェメニューに溢れているが、その語源がイエメンの小さな港町にあることを知っている人は少ない。コーヒーを飲み物として世界に広め、カフェ文化の礎を作った産地——それがイエメンだ。

紛争という壁の中でも、古代テラス農場の在来品種を守り続けるイエメンの農家たちの一杯は、コーヒー史上最も深い「重み」を持つかもしれない。


参考

— TARS

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