世界で飲まれるコーヒーの3分の1以上を供給する国——それがブラジルだ。毎朝世界中の誰かが飲む一杯のコーヒーに、ほぼ確実にブラジルの豆が使われている。その圧倒的な存在感を持つブラジルが2025年、気候変動・米国関税・ロブスタ急増という三つの課題に同時に直面した。
世界のコーヒー市場全体の安定に直結するブラジルコーヒーの2025年を読み解く。

ブラジルコーヒーの圧倒的な規模
まず数字で圧倒的な存在感を確認しよう。
ブラジルは世界のコーヒー供給量の33%以上を占め、コーヒーセクターで800万人以上の雇用を生み出している。 LIGHT UP COFFEE
2025/26年のブラジルのコーヒー総生産量は6,500万袋と予測されており、これはアラビカとロブスタを合わせた数字だ。 Pastimebase
コーヒーは20のブラジル州で栽培されており、ミナスジェライス州がブラジル最大の産地であり、エスピリトサント・サンパウロ・バイーア・ロンドニアがそれに続く。 Basecoffee
コーヒーの伝来:密輸された種から世界最大の産地へ
ブラジルのコーヒー貿易は1727年にアラビカの種が国内に密輸されたことから始まった。わずか1世紀で世界最大のコーヒー生産国になり、農業輸出を独占した。1888年の奴隷制廃止後に移民と労働者が大量流入し、コーヒー生産量は劇的に増加して1920年代には世界供給量の80%に達した。 LIGHT UP COFFEE
「カフェ・コン・レイテ(コーヒーと牛乳)の時代」と呼ばれる1880年代、サンパウロのコーヒー産業が栄え、農業寡頭勢力が生産と輸出拡大のために大きな政治力を発揮した。 LIGHT UP COFFEE
主要産地ごとの特徴
セラード・ミネイロ(Cerrado Mineiro)
セラードはブラジルの比較的新しいコーヒー産地のひとつだが、高品質スペシャルティコーヒーの産地として急速に名声を高めてきた。乾湿の季節が明確で豊富な日照量、土地のバランスと肥沃さが一定の品質を生み出している。高度な農業技術とセラードのコーヒー生産者の起業家精神も相まって、この地域は有名になった。 LIGHT UP COFFEE
セラードはミナスジェライス南西部に位置し、標高900〜1,250mと比較的平坦な地形が機械収穫を可能にしている。この平坦さが急斜面のコーヒー農場では実現できない機械化農業を可能にし、大規模・効率的な生産の基盤となっている。 LIGHT UP COFFEE
スルデミナス(Sul de Minas)
ミナスジェライス州南部のスルデミナスはブラジルのスペシャルティコーヒー生産量全体の約82%を占める地域だ。標高900〜1,400mの高地で丁寧に栽培されるアラビカは、甘みとキャラメルのような滑らかな風味が特徴で、スペシャルティコーヒー市場で高く評価されている。 Worldcoffeeresearch
モジアーナ(Mogiana)
サンパウロ州北東部の産地で、火山性土壌と高地の組み合わせが豊かな酸味とフルーティーな風味を生み出す。ブラジルの中では酸味が際立つ個性的な産地として知られており、スペシャルティバイヤーからの注目が高まっている。
エスピリトサント(Espírito Santo):コニロンの聖地
ロブスタ(コニロン)の主産地。エスピリトサントとバイーア、ロンドニアでのロブスタ生産が2025年も強い生産実績を示している。 Basecoffee
課題①:気候変動と霜害
2025年の中盤はアラビカ産地に厳しかった。ミナスジェライスのセラードの重要な地域に霜が降り、2021年ほど深刻ではなかったが、目に見えるダメージがあった。乾季初めには高湿度の寒波もあり、落葉病が増加した。さらに長引く干ばつと気温上昇が落葉を悪化させ、2025年初めに蓄積されたエネルギー備蓄を枯渇させている。 USDA
アラビカ生産量は前シーズン比6.4%減の4,090万袋と予測されており、この減少は2024年を通じた悪天候によるものだ。ミナスジェライス州は干ばつ・不規則な降雨・高温という課題に直面した。 Basecoffee
一方で6月末の軽微な霜が一部のアラビカ地域に軽度の影響を与えたにとどまり、温暖な気候が加工期間を延ばしてウォッシュトとセミウォッシュトコーヒーのより大きな生産量を可能にした。 Coffee-effect
多くのブラジルの生産者は生産の回復力を高める技術と管理手法を把握している。アグロフォレストリーシステム・干ばつ耐性品種・土壌有機物の増加・緑肥・カバークロップ・灌漑などだ。 USDA
課題②:米国50%関税という衝撃
2025年のブラジルコーヒーを語る上で避けられないのが米国との貿易摩擦だ。
2025年8月6日、ブラジルのコーヒー輸入品(アラビカ・ロブスタ両方)に米国の50%関税が発動した。 Coffee-effect
セカフェ(ブラジルコーヒー輸出者協会)によると、米国向け輸出は前年比46%減・前月比26%減となった。それでも301,000袋でドイツに次ぐ2位を維持した。 ONIBUS COFFEE
皮肉な結果も生まれた。コロンビア編でも触れたとおり、ブラジルコーヒーへの50%の関税導入によって、より有利な価格設定を含めてコロンビアコーヒーの販売が大幅に増加した。 Ucc
しかしブラジルは1〜10月の10か月間で前年同期比17%少ないコーヒーを輸出したが、国際価格の上昇により輸出収益は記録的な129億ドルに達し、2024年の通年総額を上回った。 Coffee-effect
課題③(でもあり機会③):ロブスタの急増
アラビカが減産する一方で、ブラジルでロブスタ(コニロン)の生産が急拡大している。
ロブスタ生産量は過去最高の1,980万袋と推計されており、前年比16%増だ。この成長は好天候によって有効な作物育成が可能になったこと、特にエスピリトサントとバイーアでの強い生産実績、そして高いコーヒー価格が農家の投資意欲を高めたことによる。 Basecoffee
アラビカ生産量は前年比18.4%減だが、ロブスタは前年比21.9%増で好天・灌漑・栽培面積拡大に支えられている。ロブスタ地域は引き続き強い生産ポテンシャルを示している。 Coffee-effect
スペシャルティコーヒーへの転換
「ブラジル=大量生産の商品コーヒー」というイメージは過去のものになりつつある。
ミナスジェライス州がスペシャルティコーヒー生産をリードしており、整備されたサプライチェーンが支えている。ブラジルのスペシャルティコーヒー生産者の大部分がセミドライ(ハニー)精製を採用しており、この方法単独または他の方法との組み合わせで使用している。 Worldcoffeeresearch
セラード・ミネイロでは再生農業の実践が土壌の健全性を改善し、長期的な品質向上の可能性を高めている。ミナスジェライスのEMATER-MGとの「土壌健全性の構築」トレーニングには200人以上の農家が参加しており、再生農業の採用が進んでいる。 Coffee-effect
ナチュラル・ハニー・発酵実験など多彩な精製方法への取り組みが進み、カップ・オブ・エクセレンスでのブラジル産入賞ロットも増えている。
世界のコーヒー価格に直結するブラジルの動向
世界の在庫は25年間で最低水準の2,180万袋と推定されており、供給への圧力が続きコーヒー価格を国際市場で支えている。価格の大幅な低下は見込まれない。 Coffee-effect
アラビカ先物は2025年8月に1ポンドあたり3.74ドルに達し、7月末の2.80ドルから上昇した。霜への懸念・関税・低いICE在庫を反映しており、次のサイクルの降雨と開花条件が明らかになる9〜10月にかけて市場の変動が続くと予想される。 Coffee-effect
つまりブラジルで霜が降るたびに、世界のコーヒー価格が動く。これがブラジルの存在感の本質だ。
日本のコーヒー好きへの示唆
価格上昇が続く見通し:ブラジルのアラビカ減産・世界的な在庫不足・米国関税の影響が重なり、コーヒーの小売価格は2025〜2026年も高止まりする可能性が高い。
ロブスタの品質向上に注目:ブラジルのロブスタ(コニロン)は伝統的に商品用途が中心だったが、品質改善の取り組みが進んでいる。エスプレッソブレンドに使われるロブスタの品質が上がれば、ブレンドコーヒー全体のクオリティアップにつながる。
セラードのスペシャルティを試してほしい:「ブラジル産は安い豆」というイメージに縛られず、セラード・ミネイロやスルデミナスのスペシャルティロットを試してほしい。チョコレート・キャラメル・ナッツの豊かな甘みは、エスプレッソにもドリップにも抜群の相性を見せる。
まとめ
世界のコーヒー市場の3分の1を担うブラジルは、その動向だけで世界の需給と価格を左右する。2025年は気候変動・関税・ロブスタ急増という三重の課題に直面しながらも、輸出収益は記録的な水準を達成した。スペシャルティへの転換と再生農業への取り組みが、ブラジルの長期的な競争力を支えていくだろう。
次にカフェでブレンドコーヒーを飲むとき、その一杯にブラジルの豆が使われている可能性はとても高い。それだけこの国はコーヒーと一心同体だ。
参考
- What the 2025 Brazil Coffee Harvest Can Teach Us About the Future – Daily Coffee News
- Brazil Coffee 2025/2026 Update – Efico
- Brazil expects 4.3% increase in 2025 coffee harvest – UPI
— TARS


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