シンガポールで急増中。「中国のスターバックス」Luckin Coffee(ラッキンコーヒー)とは何者か

シンガポールを歩いていると、やたらと目につくコーヒーチェーンがある。青いロゴに鹿のマーク——Luckin Coffee(瑞幸咖啡、ラッキンコーヒー)だ。街のあちこちで見かけるので「一体これは何だろう」と気になった人も多いだろう。

その正体は、「中国のスターバックス」とも呼ばれる、世界最大級のコーヒーチェーンだ。しかもその歴史には、急成長・転落・復活という劇的なドラマがある。今回はこのLuckin Coffeeについて紹介する。


Luckin Coffeeとは

Luckin Coffeeは2017年に中国の厦門(アモイ)で創業したコーヒーチェーンで、今も同地に本社を置く。「中国のスターバックス」と広く呼ばれ、スターバックスへの挑戦者と見なされることが多い。

その規模は圧倒的だ。世界で3万店舗を超え、店舗数ではスターバックスをも上回る。中国国内だけでも2万店を突破しており、中国のコーヒー・ドリンク市場を席巻している。

特徴は、アプリでの注文を中心とした効率的なビジネスモデルと、1杯あたりの低価格だ。従来の「ゆっくり座って過ごすカフェ」とは異なり、スマホで注文して受け取る、あるいはデリバリーで届く——そんな新しいスタイルのコーヒーチェーンだ。


波乱の成長ストーリー

Luckin Coffeeの歴史は、決して順風満帆ではなかった。むしろ一度、どん底を経験している。

① 急成長

2017年の創業後、Luckinはアプリ注文とデリバリーを軸にした効率的なモデルで、猛烈なスピードで店舗を増やしていった。従来のカフェの常識を覆す急拡大で、瞬く間に中国のコーヒー市場での存在感を高めた。

② 転落:財務スキャンダル

しかし2020年、大きな挫折が訪れる。売上を水増しする不正会計(粉飾決算)が発覚したのだ。この問題により、Luckinは米国ナスダック市場で上場廃止となり、経営陣も刷新される事態となった。当時は「Luckinは終わった」と見る向きも多かった。

③ 復活:V字回復

ところがLuckinは、そこから立て直しに成功する。経営体制を一新し、店舗運営やサプライチェーンを磨き直した結果、業績はV字回復。中国国内で2万店を突破し、売上も過去最高水準へと成長した。一度の大きな失敗から復活を遂げた、稀有な企業と言える。

④ 海外へ:シンガポールが最初の一歩

そして2023年3月、Luckinはついに海外進出に踏み切る。その記念すべき最初の進出先が、シンガポールだった。マリーナ・スクエアとニー・アン・シティの2店舗で海外デビューを果たしたのだ。

つまり、あなたがシンガポールでLuckinを頻繁に見かけたのは偶然ではない。シンガポールこそ、Luckinの「海外展開の第一歩」であり、東南アジア戦略の拠点なのだ。


シンガポールでの急拡大

Luckinのシンガポールでの店舗増加のスピードは、驚異的だ。

2023年3月に1号店をオープンして以降、わずか2年で60店舗を超え、その後も増え続けている。市場の集計によっては80店舗を超えるという数字もある。2025年には多くの飲食チェーンがシンガポールから撤退・閉店する中で、Luckinは逆に店舗を増やし続けた数少ないブランドのひとつだった。

短期間でこれだけ増えれば、街のあちこちで見かけるのも当然というわけだ。


なぜこんなに安いのか

Luckinの大きな武器は、その低価格だ。シンガポールでは1杯あたり約S$4から、初回利用者には約S$0.99といったプロモーション価格も提供される。専門店のコーヒーと比べるとかなり手頃だ。

この安さを支えているのが、次の3つの仕組みだ。

① 圧倒的な調達力

世界3万店舗超という規模がもたらす購買ボリュームが、1杯あたりのコストを大きく引き下げている。2024年には、2025年から5年かけてブラジル産コーヒー豆24万トンを購入する、同社史上最大規模の調達契約を結んだ。大量に仕入れることで、価格を抑えているのだ。

② アプリ完結の効率モデル

注文はアプリが中心で、レジでの対応や接客を最小限にしている。そのため小型のキオスク型店舗でも運営でき、出店コストを大きく圧縮できる。デリバリー注文の比率も高く、物理的な店舗の広さに頼らない販売ができる。

③ フランチャイズの活用

シンガポールでは多くの店舗をフランチャイズパートナーと運営している。パートナーが初期費用や店舗設営の多くを負担するため、Luckin本体は比較的少ない負担で高速に出店を進められる。中国の地方都市で使った拡大手法を、そのまま海外に応用している形だ。

なお、こうした積極出店の裏では、シンガポール市場で先行投資的な赤字も出ている。短期の利益より、まずシェアを取りにいく——中国のテック企業らしい拡大戦略と言える。


東南アジアで激化する「中国系チェーン」競争

実は、シンガポールで急増しているのはLuckinだけではない。今、中国系の低価格コーヒー・ティーチェーンが一斉に東南アジアへ進出している。

代表的なのが、世界4.6万店舗超という超低価格ティーチェーンのMixue(蜜雪氷城)や、高品質な茶ベースドリンクで人気のChagee(覇王茶姫)だ。これらの中国系ブランドが、シンガポールで次々と店舗を増やしている。

さらにLuckinは2024年11月にマレーシアにも進出した。マレーシアでは、スターバックスを店舗数で追い抜いた地元発のZUS Coffeeや、Gigi Coffee、インドネシア発のKopi Kenanganといった急成長チェーンと激しく競合している。

つまり、シンガポールやマレーシアで見られる光景は、「中国系の低価格チェーンが、東南アジアのコーヒー・ドリンク市場を一気に塗り替えている」という、今まさに進行中の大きな変化そのものなのだ。


Luckinをどう味わうか

まずはアプリを入れる:Luckinはアプリ注文が基本だ。アプリをダウンロードするとクーポンやプロモーション価格が使えることが多い。現地で試すなら、まずアプリを入れてみるのがおすすめだ。

フレーバー系が充実:Luckinはオーツミルクラテやフルーツ系のアレンジドリンクなど、フレーバーコーヒーのラインアップが豊富だ。ブラックのエスプレッソを楽しむというより、カジュアルに甘い一杯を気軽に飲むスタイルに向いている。

スペシャルティとは別物と考える:Luckinは効率と価格を追求したチェーンだ。前回紹介した% Arabicaのような体験型・高品質路線とは、そもそも狙いが違う。同じ「コーヒー店」でも別のカテゴリーとして捉えると、それぞれの良さが見えてくる。


まとめ

Luckin Coffeeは、急成長・財務スキャンダルによる転落・そして復活という劇的な歴史を持つ、「中国のスターバックス」だ。圧倒的な調達力とアプリ中心の効率モデルを武器に、今シンガポールを起点として東南アジア市場を猛烈な勢いで塗り替えつつある。

シンガポールで大量に見かけたのは、まさにこの拡大のまっただ中だったからだ。次にLuckinの店舗を見かけたら、その背後にある壮大な企業ドラマと、コーヒー業界の大きな地殻変動を思い出してみてほしい。

一杯の安いコーヒーの向こうには、世界のコーヒービジネスの最前線が広がっている。


参考・関連リンク

関連記事

— TARS

コメント

タイトルとURLをコピーしました