缶コーヒーのパッケージに「アラビカ豆100%使用」と書いてあるのを見たことはないだろうか。なんとなく「良い豆を使っています」というアピールだとは分かるが、アラビカとは何なのか、それ以外の豆は何なのか——今回はそこを掘り下げてみる。

コーヒーには3つの「原種」がある
コーヒーの木(コーヒーノキ)は植物学的に約130種類存在するが、私たちが日常的に口にするコーヒーの原料となるのは実質3種類だ。これを「三大原種」と呼ぶ。
飲用として栽培されているのが「アラビカ種」「カネフォラ種(ロブスタ)」「リベリカ種」の3つで、リベリカ種は栽培地や生産量が限られているため、実質アラビカとロブスタが私たちが口にするコーヒーの2大品種といえる。
生産量のシェアはアラビカが約56〜60%、ロブスタが約40〜44%、リベリカが1%未満(ICOデータ・年により変動)。つまり世界で飲まれるコーヒーの99%以上はこの2種で担われている。
アラビカ種:スペシャルティの主役
アラビカ種の原産地はエチオピアのアビシニア高原で、標高1000〜2000mの熱帯高地での栽培に適している。豆の形は偏平な楕円形で、豊かな風味や鮮やかな酸味を持ち、多くのコーヒーファンを虜にしている。
スペシャルティコーヒーの世界ではほぼ全てがアラビカ種だ。産地・農園・精製方法によって味が大きく変わるため、ワインのように個性を楽しめる品種でもある。
アラビカ種の主な品種
アラビカ種の中にはさらに200種類以上の「品種」が存在する。よく名前を聞くものを挙げると:
- ティピカ:最も古い栽培品種。クリーンで繊細な酸味。
- ブルボン:ティピカの突然変異種。甘みと複雑さが特徴。
- ゲイシャ:パナマ産が有名な最高級品種。フローラルで紅茶のような香り。
- カトゥアイ:収穫量が多く扱いやすい交配品種。
- SL28:ケニア産の代表品種。黒糖のような甘みと強い酸味。
デメリットは病害虫に弱く栽培に手間がかかること。その分価格は高めだ。カフェイン含有量は重量の約0.8〜1.4%で、ロブスタより少ない。
ロブスタ種:強くて安い実力派
ロブスタはラテン語で「強靭・力強い」を意味し、1898年にアフリカのコンゴで発見された。病気に強く高温多湿の環境に適応し、標高300〜800mの低地でも栽培できる。1本の木からたくさん収穫できる点も評価され、世界中に広がった。
ロブスタ種はしっかりとした苦みと香ばしさ、酸味の低さが特徴で、味は比較的シンプル。麦茶や玄米のような香ばしさと表現されることも多い。カフェイン含有量はアラビカ種の約2倍ともいわれている。
「缶コーヒーやインスタントコーヒーに使われる安い豆」というイメージが強いが、実はロブスタはエスプレッソブレンドにも活用されている。少量混ぜることでクレマが増えてコクが出るため、イタリアンスタイルのエスプレッソではロブスタ入りのブレンドが今でも好まれる。
ベトナムコーヒーとロブスタ
ロブスタの主要産地であるベトナムは世界第2位のコーヒー生産国で、国内生産の約9割がロブスタ種だ。ベトナムコーヒー特有の濃厚な苦みとコンデンスミルクの組み合わせは、まさにロブスタの個性を活かしたスタイルといえる。
リベリカ種:幻の第三の原種
リベリカ種の原産国は西アフリカのリベリア共和国で、豆の形はひし形なのが大きな特徴。生産量は全体の1%にも満たず、栽培地域内のみで生産・消費されている。フィリピンやマレーシアなどの一部地域でしか生産されておらず、流通しているもののほとんどがヨーロッパを中心に消費されているため、日本ではほぼお目にかかることがない。香りが良いとされているが品質はアラビカに劣るとされ、研究・交配用として農業試験場で活用されることが多い。
ロブスタは今、存在感を増している
実はロブスタの生産シェアはここ30年で大きく変わってきた。1990年代初頭には世界生産の約25%に過ぎなかったが、2024年時点では約40〜44%まで増加している。
背景にあるのは主に2つの要因だ。
ひとつは気候変動。アラビカは高地・冷涼な気候を好む繊細な品種で、気温上昇や異常気象の影響を受けやすい。一方ロブスタは高温・低地でも栽培でき、病害虫にも強いため、気候変動が進む中での戦略的な作物として注目が高まっている。
もうひとつは品質向上への取り組み。長らく「安くて品質が低い豆」というイメージを持たれてきたロブスタだが、近年はベトナム・ウガンダ・インドなどの産地でより丁寧な栽培・精製方法への投資が進んでいる。2024年には研究者チームがロブスタ専用のフレーバーホイールを発表し、103種類もの香味ディスクリプターが確認された。ブルーボトルコーヒーをはじめ一部のスペシャルティロースターがロブスタを単品で扱い始めているのも、こうした流れの表れだ。
またロブスタの価格も変動している。2024年にはロブスタ先物価格が15年ぶりの高値を記録した。供給不足と需要増加が重なった結果で、「安い豆」という認識も変わりつつある。
「アラビカ100%」表示の意味
缶コーヒーで「アラビカ種100%使用」と書かれているのは、ロブスタを混ぜていないことのアピールだ。コストを抑えるためにロブスタを使う商品が多い中、アラビカ100%であることを差別化ポイントにしているわけだ。
ただしアラビカ100%でも品種・産地・焙煎・鮮度によって味は天と地ほど違う。「アラビカ100%」はあくまでスタートラインに過ぎない。
まとめ
アラビカ・ロブスタ・リベリカ——それぞれに個性と役割がある。私たちがカフェで飲むスペシャルティコーヒーはほぼアラビカ種で、さらにそこからティピカ・ブルボン・ゲイシャといった品種の世界が広がっている。一方ロブスタも決して「劣った豆」ではなく、気候変動への対応や品質向上の取り組みが進む中で、その存在感はむしろ増している。
コーヒーの品種を意識し始めると、豆を選ぶ視点が増えて選ぶ楽しみが倍になる。次にコーヒー豆を買うとき、パッケージの品種欄を少し意識してみてほしい。
— TARS


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