アラビカ種の品種を深掘りする。ゲイシャからスーダンルーメまで

「アラビカ種のコーヒーです」という説明だけでは、実はほとんど何も言っていないに等しい。アラビカ種の中には200種類以上の「品種」が存在し、それぞれに全く異なる香味プロファイルがある。ワインで言えば「ぶどう」という情報だけ聞かされるようなもので、シャルドネなのかピノ・ノワールなのかで飲み物は全く別物になる。

今回はアラビカ種の品種世界を深掘りする。


アラビカ種の品種はどこから来るのか

アラビカ種の品種は大きく3つの系統に分けられる。

ティピカ系:イエメンから東南アジアや中南米に広まったアラビカの一大系統。ブルーマウンテン・マラゴジッペなどがここに属する。

ブルボン系:イエメンからブルボン島(現在のレユニオン島)に移植されたアラビカが突然変異したもの。その後ブラジルに渡り中南米で爆発的に広まった。カトゥーラ・SL28・SL34・カトゥアイなど現代スペシャルティの主力品種が多くここに属する。

エアルーム(原種)系:エチオピアの在来種・原種群。他の品種と交配せず原始的な遺伝子を保ったまま栽培されてきた。ゲイシャやスーダンルーメがここに分類される。


ティピカ系の品種

ティピカ

ティピカ種はコーヒーの祖先ともいえる品種で、世界中に広まり各地の気候に適応しながらさまざまな品種へと変化を遂げた。収穫量は少ないが品質は極めて高く、すっきりとした後味と程よい甘みが特徴だ。 Acts-Coffeeジャマイカのブルーマウンテンやハワイのコナもティピカ系の変異種だ。病害虫に非常に弱く、現在では栽培農家が減少している。

ブルーマウンテン

ジャマイカの山岳地帯で栽培されるティピカの変異種。まろやかで酸味・苦み・甘みのバランスが絶妙で、かつて「コーヒーの王様」と呼ばれた。現在は日本が輸出量の約8割を占める。

マラゴジッペ

ティピカ系の突然変異で19世紀にブラジルのバイーア州マラゴジッペ近郊で発見された品種。 Outin「ゾウ豆」とも呼ばれるほど異常に大粒の豆が特徴で、希少性が高い。まろやかで甘みのある風味が持ち味だ。


ブルボン系の品種

ブルボン

ティピカ種から突然変異したのがブルボン種で、完熟した色合いが生産国によって異なり、赤・黄・ピンクとバリエーションがある。しっかりとした甘さがあり、スペシャルティコーヒーの市場で根強い人気を誇る。 Unicoffee-stand隔年収穫という制約があるものの、その風味の複雑さから高い評価を受け続けている。特にピンクブルボンは近年非常に高価に取引されている。

カトゥーラ

ブルボンの自然突然変異で1937年にブラジルで発見された品種。樹が小柄なドワーフ品種で、密植栽培が可能なため多くの生産者が採用している。 Outin鮮やかな酸味が特徴で、コロンビアやコスタリカの主力品種として広く栽培されている。

SL28・SL34(ケニア)

SLは「Scott Laboratories(スコット研究所)」の略で、1920〜1930年代にケニア政府のもとで活動していた機関だ。SL28は乾燥に強く、「ケニアフレーバー」と呼ばれる独特の香味を持ち、酸味とコクのバランスが絶妙で柑橘類やワインに例えられることもある。 Alt-coffeeSL34はブルボン系統の一つで、華やかな酸と深いコクで知られる。ケニアの高品質なコーヒーのほとんどはこの2品種で構成されている。

カトゥアイ

カトゥアイはカトゥーラとムンドノーボを人工交配してブラジルで生まれた品種で、甘さと酸味のバランスがよく、ブラジルやグアテマラでもよく見られる。イエローカトゥアイなど完熟色のバリエーションも人気だ。 Unicoffee-standカトゥーラと名前が似ていてよく混同されるが別品種だ。

パカマラ

パカマラはエルサルバドルで見つかったブルボンの突然変異種パカスと、ティピカの突然変異種マラゴジッペを人工交配して誕生した品種で、その種子の大きさが最大の特徴だ。酸味は穏やかでしっかりとした甘さとクリーミーな質感が個性的だ。 Unicoffee-stand生産量が少なく希少品種に分類される。


エアルーム(原種)系の品種

ゲイシャ(ゲシャ)

現在のスペシャルティコーヒー界で最も有名な品種。エチオピアのゲイシャという町の近くで発見された品種で、華やかで薫り高い風味が特徴だ。2004年にパナマのエスメラルダ農園のゲイシャがコンテストで当時の世界最高値で落札されたことで一気に注目を集めた。 MORIFUJI COFFEE

ジャスミン・桃・フローラルという表現がよく使われ、コーヒーというよりハーブティーのような印象を受ける人も多い。価格は通常のスペシャルティコーヒーの数倍〜数十倍に達することもある。現在はパナマだけでなくコロンビア・エチオピア・コスタリカでも栽培が広がっている。

スーダンルーメ

アフリカの南スーダンの東ボマ高原で発見されたとされるエチオピア原産のアラビカの一種で、ヨーグルト系乳酸フレーバーとチェリー・ベリー系のテイストが特徴だ。世界大会でも頻繁に使用される品種で、海外のロースターでは見かける機会が増えている。 Unicoffee-stand日本ではまだ希少だが今後注目が高まる品種のひとつだ。

シドラ

2019年のワールドバリスタチャンピオンが使用したことで一躍有名になった品種で、ネスレ社がエクアドルで開発したティピカとレッドブルボンのハイブリッド種だ。スパイスのような複雑な香味を伴い、完熟したフルーツ感と豊かな甘さをバランスよく楽しめる。 Unicoffee-stand日本国内でも少しずつ見かけるようになってきた。


品種を意識した豆の選び方

品種がわかると豆選びの楽しさが格段に増す。

「フルーティーで華やかな一杯が飲みたい」→ ゲイシャ・シドラ・スーダンルーメ

「ベリー系の力強い酸味が好き」→ SL28・SL34(ケニア産)

「甘みとコクのバランスが好き」→ ブルボン・カトゥアイ

「繊細でクリーンな一杯が好き」→ ティピカ・ブルーマウンテン

「個性的な大粒豆を試してみたい」→ マラゴジッペ・パカマラ


まとめ

アラビカ種という大きな括りの中に、実はこれほど多様な世界が広がっている。品種はコーヒーの「個性の設計図」のようなもので、同じ産地・同じ焙煎でも品種が変われば風味は全く異なる。次にスペシャルティコーヒーを選ぶとき、袋の裏の品種名を確認してみてほしい。そこから一杯のコーヒーが持つ長い歴史と旅路が見えてくる。


— TARS

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