コーヒー業界、今まさにコスト危機の真っただ中
「コーヒー1杯の値段、また上がった気がする…」そんな風に感じている方も多いのではないでしょうか。実は今、カフェを経営する側も相当な苦境に立たされています。
2025年初頭、生豆(グリーンコーヒー)の価格は史上最高水準を記録し、1ポンドあたり4米ドルを超えました。 これは歴史的に見ても異例の高騰で、業界全体に大きな衝撃を与えています。仕入れコストが上がれば、当然ながらカフェの経営を圧迫します。そんな状況の中、一部のカフェオーナーたちが注目し始めているのが「自家焙煎」という選択肢です。
「自分たちで豆を焙煎すれば、焙煎業者へのマージンを省けるんじゃないか?」という発想は、一見すると合理的に思えます。でも実際のところ、どうなのでしょう?今回はその疑問に正面からお答えしていきます。
そもそも、カフェのコスト構造ってどうなってるの?
自家焙煎の話に入る前に、まずカフェ経営のコスト全体像を理解しておくことが大切です。「生豆が高い=経営が苦しい」という単純な図式ではないんですよね。
カフェの主な支出を大まかに分けると、こんな感じになります:
- 家賃・テナント費用:立地によっては売上の20〜30%を占めることも
- 人件費(スタッフの給与):多くの場合、最大の支出項目
- 包装・消耗品費:カップ、蓋、ストローなど地味に積み重なる
- 光熱費(エネルギーコスト):エスプレッソマシンや冷蔵設備の電気代も馬鹿にならない
- 牛乳・乳製品費:ラテ中心のメニュー構成だと特に大きい
- コーヒー豆の仕入れ費用:意外にも全体の一部に過ぎないことが多い
つまり、コーヒー豆のコストはあくまで「全体の一要素」に過ぎず、大幅な削減を狙えるほどの割合を占めていないケースがほとんどです。この点を理解しておくと、自家焙煎の効果をより冷静に評価できます。
自家焙煎で「節約できる部分」とは?
では、焙煎を内製化することで実際に何が変わるのでしょうか。まず、焙煎済みのコーヒーを専門ロースターから購入する場合と、自分たちで生豆を仕入れて焙煎する場合のコスト差を見てみましょう。
| 項目 | 焙煎済み豆を購入 | 自家焙煎(生豆仕入れ) |
|---|---|---|
| 1ポンドあたりのコスト | 比較的高い(焙煎・流通マージン込み) | 生豆価格のみ(割安になる可能性) |
| 品質管理の主体 | ロースター側 | 自分たち |
| 設備投資 | 不要 | 必要(焙煎機など) |
| 専門知識の必要性 | 低い | 高い |
| 時間・労力 | 少ない | 多い |
確かに、生豆は焙煎済みの豆より安く仕入れられることが多いです。理論上は、その差額がそのまま利益に転換できるように思えます。しかし話はそう単純ではありません。
でも、自家焙煎には「隠れたコスト」がある
ここが一番大事なポイントです。自家焙煎を始めるには、まず焙煎機の導入が必要です。小型の業務用焙煎機でも数十万〜数百万円の投資が必要で、初期コストだけで相当な額になります。
さらに、焙煎という作業自体が簡単ではありません。
- 豆の産地・品種ごとに異なる焙煎プロファイルを習得する必要がある
- 品質の安定したコーヒーを出すには相当の練習と経験が必要
- 焙煎中は目を離せないため、スタッフの労働時間が増える
- 焙煎機のメンテナンスや修理費用も継続的にかかる
- 換気設備など、店舗改装が必要になるケースも
人件費と時間コストを正直に計算に入れると、「節約になっているのかどうか微妙…」という結論になることも少なくありません。 むしろ、最初の数年は赤字になるケースすらあると言われています。
それでも自家焙煎を選ぶカフェが増えている理由
「コストだけ見ると旨みが少ないかも…」と感じた方、実は自家焙煎の魅力はそれだけではありません。経営者たちが自家焙煎を選ぶ理由には、コスト以外の大きな要素があります。
ブランド価値と差別化が、その最たるものです。「自家焙煎カフェ」というだけで、お客さんの目にはグッとこだわりのある特別なお店に映ります。SNS映えもしますし、コーヒー好きのお客さんを惹きつける強力な武器になります。
また、供給チェーンのコントロールという観点も重要です。外部のロースターに依存していると、価格交渉の余地が限られますし、豆の品質や納期も先方次第になってしまいます。自分たちで焙煎できれば、生豆の段階から品質をコントロールでき、メニューの柔軟性も格段に上がります。
さらに、卸売り・小売りビジネスへの展開という可能性も生まれます。自家焙煎豆をパッケージ販売したり、他のカフェや飲食店に卸したりすることで、新たな収益源を作れます。これが軌道に乗れば、焙煎設備への投資を回収できるだけでなく、本業のカフェ経営を下支えしてくれることにもなります。
自家焙煎が「向いているカフェ」と「向いていないカフェ」
では、どんなカフェが自家焙煎に向いているのでしょうか。正直なところ、すべてのカフェにおすすめできる選択肢ではありません。
向いているカフェの特徴:
1. 豆の販売や卸売りなど、焙煎ビジネスへの発展を見据えている
2. オーナー自身がコーヒーの焙煎に強い情熱と知識を持っている
3. 初期投資を回収できるだけの資本力・経営体力がある
4. 差別化されたブランドとして認知されることを重視している
向いていないカフェの特徴:
1. 人手が足りない、またはスタッフを新たに雇う余裕がない
2. 焙煎スペースや換気設備のための改装が難しい立地・物件
3. 短期的なコスト削減を主な目的としている
4. すでに信頼できる焙煎業者との良好な関係がある
「コストを減らしたいから自家焙煎を始める」という動機だけでは、うまくいかないことが多いというのが、業界の実情のようです。
まとめ:自家焙煎は「コスト削減策」よりも「ビジネス戦略」として捉えるべき
結論として、自家焙煎によってコストが劇的に下がるかというと、必ずしもそうとは言えないというのが正直なところです。生豆コストの削減効果はあるものの、設備投資・人件費・時間コストを加味すると、純粋なコスト削減策としてはハードルが高い選択肢です。
一方で、ブランド価値の向上・品質管理の自由度・新たな収益源の開拓といった観点から見ると、自家焙煎には大きな魅力があります。特に、焙煎ビジネスそのものを事業の柱の一つにしようと考えているカフェには、中長期的に非常に有効な戦略になり得ます。
コーヒー業界が厳しいコスト環境に置かれている今だからこそ、「流行っているから」「節約になりそうだから」という理由ではなく、自分たちのカフェのビジョンと照らし合わせて、冷静に判断することが大切なのかもしれません。
あなたのカフェ(あるいはお気に入りのカフェ)は、自家焙煎に挑戦してみる価値がありそうですか?ぜひ考えてみてください。
参考
— TARS


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